セリ子インタビュー

セリ子インタビュー

ありきたりだけど「やる気」が一番。気持ちでぶつかること。

信頼関係で成り立っている世界だから、正直なことがセリ子の最低条件です。

丸宇木材市売株式会社 上原浩之

大切な財産を”預かって売る” それがセリ子という存在

セリ子インタビュー

全国から集めた木材を市場のセリ売りで小売業者に販売する、この市売事業を手がけるのが関東圏4カ所に市場を持つ丸宇木材市売株式会社(以下丸宇)だ。毎週1回の「市日」と呼ばれるセリの日には、数時間かけて集められた木材が競られ値付けされていく。

「まさに魚のセリなどと同じで、お客さんに木材を見てもらい、値段をつけて買っていただきます」

そのセリ売りを担当するのが、“セリ子”と呼ばれる存在。長年のキャリアを持つ上原もその一人だ。セリ子はそれぞれが担当地域を持ち、自分で集めてきた木材を自分で売るのが単式市場(※1)の典型的な特徴となる。

「仕入や陳列など、当日までの準備作業の方が圧倒的に多いです。まず全国各地の製材所を回り、木材の出荷をお願いすることから仕事が始まります」

そうした出張に加え、頻繁に電話のやり取りを重ね、製材所として売りたいものや小売業者が欲しいものを見定めていく。集めた木材は水曜日の午前中までかけて整頓し、売りやすいように現場に陳列。(※2)セリ日以降は、無事に売れた木材を積み出す作業が待っている。それら全てが終わると、また担当地域へ集荷に向かうというわけだ。

「僕たちは市場なので、木材は偏りなく集めるようにしています。あくまで、製材所の商品を“お預かりして売る”立場です。製材所から見れば財産を預けることになりますから、まず信用していただけなければ仕事は成り立ちません」

材種も用途もわからない。まさにゼロからのスタート

セリ子インタビュー

18歳で丸宇に入社した上原は、4年目でセリ子となった。当時は木材を見ても、建築用途はおろか杉なのか檜なのか材種すらわからなかったという。

「まさにゼロからのスタート。それまで物を売ったことがないから自信もないし、いくらで売れるのかもわからない。それでも製材所に『私に預けてください』とお願いしに行くわけですから、最初はとても苦労しましたね。しょっちゅう怒られていました(笑)」

上原が最もつらかった出来事がある。それは、高級な檜の役柱(※3)をセリの流れで売った時のこと。製材所に経緯を報告すると、「そんな値段で売るんじゃない! 今すぐ返してくれ!」と怒られたのだ。だが、既に売ってしまったものを顧客に「返してください」などとは、口が裂けても言えない。

「言った瞬間、丸宇の信用がなくなりますからね。頭を下げて謝り続けるしかない。セリ子が難しいのは、売る方も買う方もどちらもお客さんだということ。安く売ったら売り手が怒り、高く売ったら買い手が怒る。預かって売る立場上、それは付いて回ります」

 荷主と買い手の間で、セリ子は常に板挟みの存在になる。

「一番良いのは全員が納得して商売が成り立つこと。でも、そんなきれいな状況は多くない。そこで、間に入るセリ子の采配が厳しく問われるのです」

セリ子として経験を積んでも、「まだ怒られている」と笑う上原。ただ、これまで顧客に多くを教わり、厳しく育ててもらって今の自分があると語る。

「この業界には若い者を育てようとする方が多いんです。製材所から見ればセリ子は自分の商品を『仕入れて売ってくれる者』なので、『セリ子が成長すれば自分たちの身にはね返る』という面もあります。だから厳しいことも言うし、時に優しく接してくれる。そういう関係性の中でチャンスを与えてくれる人に対し何を返せるのか、それを常に考えています」

丸宇の看板を背負いながら懸命に働く日々

セリ子インタビュー

セリ子になって間もない頃から、一人で各地の製材所を回っていた上原。

「もちろん最初は先輩方が付き合ってきた取引先がメインなので、飛び込みをするわけではありません。ありがたいことに、丸宇と言って『知らない』と言われたことはありません」

顧客の中には若い頃に丸宇で“修行”した人も多く、「俺も丸宇にいたんだ」と言われることもしばしばだという。

「『丸宇学校』と呼ばれた時代もあったそうですよ。そんな丸宇の看板で木材を預かるわけですから、いい加減なことはできません。丸宇で育ったと自負する方も多いので、誠意を持って仕事に打ち込むことが大切なんです」

一生懸命に接すると、相手もしっかり応えてくれる世界。顧客に「よく売ってくれたな」「施主さんとても喜んでたよ」と言われる時が、上原にとって最も嬉しい瞬間だという。

「一度きりのセリのために長い時は半年前から木材を集めるわけですから、お客さんに『ダメでした』とは言えないし、セリ日まで緊張で寝られないほどです。だからこそ売れた時は気持ちがいいし、仕事の醍醐味を感じますね」

質の良い木材を伐採するために、製材所はどれ程の苦労を重ねているのか。彼らの木にかける強い思いがわかるからこそ、預かるセリ子のプレッシャーは半端なものでは済まされない。

「製材所を背負っているつもりでやっています。息子のように接してくれる方に対し、恩返ししたいのです」

日本の木材相場はセリ子が担うという自負

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上原がセリ子であることに喜びを感じるもう一つの瞬間がある。それは大量の木材が一同に集まり、木材相場が動くその中心でセリをする時に感じる、自らが相場を背負っているという自負だ。

「セリ子は日本の木材相場を作る立場です。その意味でとても刺激的だし、最先端の情報に触れられる“生きた仕事”が体験できます。まさに、木材業界のど真ん中で働くわけですから」

そんな日本の木材業界は、現在少子高齢化や住宅市場の円熟で転換期を迎えている。外材が大量に輸入される中で製材所が減少し、国産材の自給率は30%に満たない。そのため、政府は「公共建築物等木材利用促進法」などの法律で国産材の使用促進を計り、2020年までに自給率50%を目指している状況だ。だが、上原の描く未来は明るく力強い。

「資源をもっと有効に活用すればいい。少子化で家が建たないなら、幼稚園や老人ホームなどの非住宅、また土木はどうか。木を使う場面はもっとあるはずだし、ある地域では木材のガードレールだってあるんですよ」

環境面の効果も大きい。上原曰く、立木(※4)はCO2を吸収して固定するが、木造住宅を建てることは「小さな森がひとつできる」感覚だという。

「僕たちは“生物”を売っている感覚なんです。木は生きているし、乾燥材でも呼吸しているんですよ」

日本は「木の文化」と言われる。木が持つ匂いや心地良さをこの国の住民は愛し、育んできた。きめ細かな木の文化を発展させてきた日本人には、元来木に対する愛着が根底にあるはずと上原は確信している。

「だから、木目調の商品が売れたりする。本物の木を買って欲しいんだけどね、ハハハ(笑)」

材料、用途、1本たりとて同じ木はないということ。知識を網羅することは難しく、奥深い世界だと上原は語る。

「知らないことが次々と出てくるし、まだまだ下っ端だと思っています。成長する中でたとえ慢心しても、しっかり怒ってへこましてくれる人もいる(笑)。そうして育てられてきたと思うと、本当にありがたいですね」

人の心に鈍感ではセリ子は務まらない

売れた時も売れなかった時も、顧客と正直に接するのがセリ子。逃げたくなる時でもあえて自ら連絡を取り、謝るべきことは正直に謝る。相手は自分の親より上の世代のベテラン揃い。胃の痛くなる仕事に見える。

「普段から正直に話をすること、それがセリ子の最低条件。ひたすら信頼関係で成り立っている世界なんです。調子良く荷物を集めても、次は買い手を集めなくてはいけない。集めれば集めるほどプレッシャーがかかる。だから、常にお客さんの動き、考え、姿などをイメージしながら準備しています。人の心に鈍感ではセリ子は務まりません」

真剣に相手と接し、心を探りながら必死に食らいつく。そうして人に揉まれれば揉まれるほど、否が応でも敏感になっていくと上原は語る。

「結局、気持ちでぶつかることが大切だとわかりました。丸宇を志望する若者に伝えたいのは、ありきたりだけど『やる気』が一番ということ。大丈夫、丸宇で働けば自然と元気になりますよ!」

木材相場の中心で、自然と経済の領域を同時にカバーする希有な仕事。最後に豪快に笑ってくれた上原のようなセリ子が増えれば、日本の木材業界の未来は、間違いなく明るい。

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※1 単式市場:市場会社が直接販売材を集荷し、買方を集客して販売する市場方式。
※2 大栄浜市場では毎週水曜日が市日。
※3 役柱:主に、室内に現れる「見え掛かり部分」(施工後も表に見える柱や鴨居等)として使用される柱。
※4 立木:地面に生育している樹木。土地の定着物であり、不動産とされる。
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